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Chochotteの靴は職人の分業による日本製

写真:靴型(生産用木型)にセットした中底に甲革を固定する作業が終わったところ

一足の細幅靴はたくさんの『職人の手』を経て完成します。その職人たちをつなぐ存在といえるのが、製靴の工程を熟知した営業企画の倉本 光治さんです。有名アパレルブランドなどの靴づくりの現場に40年以上携わってきた倉本さんの仕事を通して、普段は目にすることのない『靴の中身』をたっぷりご紹介します。

「一足ずつ作って一人ひとりに届ける。それが靴作りの基本です。」

有限会社ブリック 倉本 光治さん のお話し

「こんな靴がつくりたい。」というアパレルブランドやデザイナーの依頼を受けて、彼らのデザイン画を実際の靴の形にしていくのが私の仕事です。

もらった要望にはできるだけ応えますが、独立するときに「嫌なものは嫌だと言えるメーカーになる。」と嫁さんに誓ったのでね(笑)。デザインが良くても、履いたときに問題が出そうな仕様については遠慮なく「ノー」と言わせてもらいます。

それで「一体どうしたらいいの?」と相手が困らないように、「こうしてみたら?」と解決策もちゃんと用意する。そういうメーカーでありたいですね。

写真:倉本さん
倉本さんは靴メーカー勤務を経て1995年に独立。デザイン性や完成度が命のファッションブランドの靴を数多く生産してきました。 Chochotteのデザイナー菊池とは古い知り合いで、ある細幅靴の生産が困難になったときに、倉本さんが「うちで受けようか?」と助け船を出してくれました。

Chochotteの細幅靴のための材料探し

細幅靴で苦労するのは、まずヒール探しです。

小さいかかとに接着できるヒールは少なく、選んだヒールがちょっと大きいこともある。そんなときは「中底を少しだけ大きくして接着しようか?」などと、何か方法を考えます。

写真:木型にヒールパーツを組合わせたものと、その木型で作られたChochotteの靴(Chloe、Monica、Holly)
おしゃれな細幅靴を現実のものにするため、イメージにぴったりなヒールや革などの材料を探して選んでいます。

それから革。天然の革は一つとして同じものがなく、靴材料としては揃えるのも扱うのも大変です。だけど、天然の革には伸縮性や通気性があってとても履き心地がいい。

以前、Chochotteのレインシューズが合皮から本革へとリニューアルされたときは、菊池さんから「できれば天然の革を使いたい。」というリクエストをもらったので、防水性のある天然皮革を探して提案しました。リニューアル前よりも風合いのいい蒸れにくいレインパンプスになったと思いますよ。

写真:金型を使って型抜きした革を手に取る倉本さん
「この色の革はもう手に入らない!」というピンチに遭遇するのも天然素材ならでは。そんなときも革や材料に詳しい倉本さんが頼りになります。

見えない下ごしらえに手を抜かない

いい靴は、かかと周辺にホールド感があって、足にフィットする感覚があります。そういういい靴を手がけたいなら、見えない部分へのこだわりも大事です。材料の“下ごしらえ”にも手は抜けません。

たとえば、かかとに挟むカウンターという芯材には、革素材で伸縮性のあるタイプと、カチカチの素材で形が固定されたタイプがあるけど、うちでは革のカウンターを使います。

革のカウンターは手間がかかるから、流れ作業で安く作りたい靴には向きません。カチカチの芯を使ったほうが見た目も均一で早く作れます。でもいくら履いても足の形に馴染まない靴になるので、人によってはすぐに靴擦れしてしまいます。

革のカウンターは既製品なので、形やサイズは製靴の職人が細幅靴のデザインに合わせて調整しています。革は手仕事との相性がいいし、下ごしらえもしやすいですね。

写真:かかとに挟む床革のカウンター(月型芯)とそれを加工する様子
左:かかとに挟む床革のカウンター(月型芯)。
右:湿らせると柔らかくなり、靴型(生産用木型)にフィットさせて成形できます。乾くとホールド感が出ますが吸湿性も保たれるので、履くと個々の足の形に馴染む靴になるのです。

一足ずつ作って一人ひとりに届ける靴

Chochotteの靴はお客さんからの受注生産品なので、一足ごとにデザイン・サイズ・色の組み合わせが違います。サイズも23.5cmなどの足長と、A・2A・3Aなどのワイズがあるから、流れ作業でつくることはできません。

でも靴って本来そういうもので、一足ずつ作って一人ひとりに届けることが、靴づくりの基本だと思います。

日本の、とりわけ東京の靴づくりは職人の手仕事で成り立っていて、工程ごとに職人が変わります。動力が導入されて人の手が機械に置き換わった工程もあるけれど、それは一部分にとどまっています。

ではこれから、Chochotteの靴の革を裁断する工程と、製甲職人や底付け職人の仕事場を案内しましょう。

写真:机に並べた型紙を見ながら倉本さんと相談をする菊池
菊池が目指しているのは、洋服とのコーディネートが楽しくなるようなおしゃれな細幅靴。サイズや革や色のバリエーションがどうしても多くなるので、作り手は大変です。

製靴のおもな工程

  1. ヒールや革などの材料を選ぶ
  2. 木型をもとに紙型師が靴の紙型(パターン)をひく
  3. 紙型をグレーディング(サイズ変更)した型紙を作成
  4. 型紙からパーツ別の抜き型(金型)を作成し、革を裁断
  5. 製甲職人が甲革(アッパー)を縫い合わせる
  6. 底付け職人が靴型(生産用木型)にセットした中底に甲革を固定
  7. 中底に固定した甲革の凹凸をグラインダーで削る
  8. 成形のため靴型ごと2日ほど寝かせて、革や芯を馴染ませる
  9. 本底をつけ、靴型から取り外してヒールをつける
  10. 中敷きを入れ、革の表面をふいて熱風とコテで綺麗に整える

木型から型紙をつくり、革を裁断する

写真:ウイングチップのひも靴、Alexの型紙
まず靴の木型から紙型師と呼ばれる職人が紙型を作成します。その紙型を足長サイズにあわせてグレーディング(拡大・縮小)してレンガ色の型紙を作ります。 グレーディングは倉本さんが担当。単純に等倍すると足幅やかかとのフィット感にバラつきが出てしまうため、ミリ単位で比率を変えるそうです。
写真:革のたくさんおかれた作業場で実演してくれる倉本さん
レンガ色の型紙をもとに製作した金属の抜き型を、革の上にセットして裁断する様子。
写真:積み上げられた段ボール箱の上に置かれた、白い箱に入ったパーツのセット
白い箱は、靴職人のタスキリレーにかかせないアイテム。一足ずつデザイン・色・サイズが違うので、取り違えを防ぐために、一箱に必要なパーツを全部揃えたうえで職人へ手渡されます。

製甲職人の仕事

写真:作業机の上で、受け取ったパーツを手に取る安田 榮さん
倉本さんの紹介でアトリエ ワイワイの安田 榮さんを取材させていただきました。Chochotteの靴の製甲(アッパー)を担当されている職人のお一人です。
写真:鋤き(すき)を施す機械と、甲革を作業台にのせる安田さん
左:甲革を部分的に削る『鋤き(すき)』を施す機械。甲の縁を内側へ折り込むための大事な下ごしらえです。 倉本さんいわく、製甲のキモはこの工程にあり、安田さんのように技術の高い職人が行なうと、滑らかで美しい甲に仕上がるそう。すきが上手い職人は他の作業も緻密だそうです。
写真:作業をする安田さん
革を鋤いた場所に芯テープを貼り、数ミリ刻みの切れ目を入れて、革の縁を内側に折っていく様子。手作業とは思えないほど、なだらかな曲線です。 天然素材の革は伸縮性があり、ハンマーでこまめに叩き滑らかに整えながら作業がすすめられます。
写真:ミシンに向かう安田さん
足踏みミシンでかかとを縫い合わせる様子。「かかとは大事だよ。こうして丸く作っておくと次の底付け作業も多少楽になる。」と安田さん。
写真:筆を使って糊を革裏に塗る安田さん
表革と裏革を重ねる様子。表から見ると縁に芯材を巻き込んだことがわからないくらい、段差なく仕上がっています。
写真:足踏み式ミシンに向かう安田さん
ミシンで甲の縁を縫い合わせる様子。箇所によって2台のミシンを使い分けています。
写真:余分な革をカットする安田さん
左:最後に余分な革をカット。底付け職人が靴型に固定する部分の革は残しておきます。 右:表甲と裏甲の間に指を入れて剥がし広げます。「こうすると次の職人が月型(かかとに挟む芯)を入れやすいし、きちっと出来るからね。」と安田さん。
写真:完成した靴の甲(アッパー)
完成した靴の甲部分(アッパー)。この状態で底付け職人の手に渡ります。
写真:談笑する山田さんと安田さん
アトリエ ワイワイを立ち上げた靴職人であり紙型師の山田 史枝さん(左)。安田さんは10年以上の師匠だそうです。 「靴作りの面白さは探求に終わりがないところ。安田さんの凄い技術が途切れないように他の人にも伝えて、一緒に靴屋さんを盛り上げたい。」と山田さん。それに対し「俺はもう休みたいよ(笑)。」と返す安田さん。

底付け職人の仕事(つり込み工程)

写真:甲革(アッパー)をかぶせた木型を手に持つ海老原さん
Chochotteの靴を担当されている底付け職人のお一人、海老原 久男さんを取材させていただきました。
写真:木型に甲革をかぶせる海老原さん
靴型の底面には中底がセットしてあり、上から甲革をかぶせて中底と固定していきます。この工程を『つり込み』といいます。 「つり込む前に、かかととつま先のセンターをしっかり合わせなさいと親方に教わりました。」と海老原さん。
写真:甲革をかぶせた木型を、底を上にして持つ海老原さん
靴型から革が浮かないように、革の間に挟むカウンター(月型芯)の形も調整しています。細幅靴は幅が狭く、つま先をつり込む機械(トーラスター)なども使えないので、すべて手作業です。
写真:つま先部分の甲革を中底に固定する様子
ワニと呼ばれるペンチを使って革を引き、親指をうまく使いながら革をまとめ、釘(タックス)で中底に固定します。
写真:ハンマーで釘(タックス)をたたくくようす
革を靴型の形に沿わせるために、繰り返し革を引き、釘を打ち、ハンマーでこまめにたたいてなじませます。
写真:革やカウンターにハサミを入れながら、靴の側面をつり込む様子。
革やカウンターにハサミを入れながら、靴の側面をつり込む様子。つり込みは、「あまり革を引っ張りすぎない方がいいね。」と海老原さん。力まかせではなく、無理なく靴型に沿うような力加減が大事だそうです。
写真:つり込み作業を行っているところ。釘(タックス)がきれいに並んでいる。
綺麗に仕上げる秘訣を尋ねると「やはり紙型のところからピシッとできているとうまくいきますね。」とのこと。靴づくりは分業制ですが、職人の「いい靴にしよう」という想いは一つにつながっていることが伝わってきました。
写真:つり込みがほぼ終わったChochotteのパンプスを手に持つ倉本さん
つり込みがほぼ終わったChochotteのパンプス。革が靴型の凹凸にそって綺麗にカーブしています!
つり込み後は、靴型をつけたまま2日ほど寝かせて形をなじませます。それから本底とヒールをつけ、仕上げをして完成です。

靴作りで誰かをサポートできるように

見てもらったように、靴ってどこまでも人の手がかかるでしょ? ちなみにヒールパンプスのようなエレガンスな靴と、カジュアルな靴とでは使う革の厚さとかミシン糸の番手が違うから、職人も変わります。どんな靴も手がけてきたという職人はあまりいないので、一人ひとりの技術も専門性が高いのです。

この仕事をしていると、よく知人の女性からも「履ける靴がない。」という話を聞きます。足のサイズが小さかったり細かったりして困っている人のための靴は、全体数に比べてまだまだ生産数が少ないからでしょうね。

Chochotteの細幅靴は、木型もデザインもここまで追求して作っているから、合う靴がなくて困っている人たちにもっと知ってもらえるといいですね。 私もいい靴をつくるために、これからも靴作りに一生懸命なデザイナーや職人をサポートしていきたいと思っています。

写真:ヒール付けの機械の前で底付けのシミュレーションをしてくれる倉本さん
「ヒール付けはこんな感じね。」とシミュレーションしてくれた倉本さん。ありがとうございました! これからもChochotteをどうぞよろしくおねがいいたします。

Chochotteの靴作りの様子はいかがでしたか?
オーダーされたみなさまには、靴作りに携わる人々がそれぞれの想いを込め、タスキリレーのような連携で完成させた一足の細幅靴を、大切にお届けいたします。どうぞ、お楽しみに。