Chochotteの靴はオリジナルの木型から製作
足にフィットする細幅靴ができるかどうかは最初の『木型』にかかっています。Chochotteの木型を手がける富田 光治さんは職人歴67年(2019年現在)の大ベテラン。『個性のある木型をつくること』を大切に、デザイナー菊池が描く細幅靴のイメージから立体的な木型を設計します。この木型から靴の一生、そして熟練職人たちのタスキリレーがはじまります。
「人の個性を大切にした木型をつくる。その道では負けません。」
株式会社ヒカリ 富田 光治さん のお話し
10代で木型屋の世界に入り、それからずっと木型一筋です。とくに器用というわけじゃなかったから弟子仲間にバカにされましてね、「それなら人の個性に合う靴をつくろう。その道では負けないぞ。」と思ったのが職人としての原点です。
独立後は、ブランド靴のデザイナーの方々にずいぶん贔屓にしてもらいました。TOKIO KUMAGAЇもその一つ。だから菊池さんとの出会いはもう30年以上も前になります。
靴デザイナーの個性が光る木型づくり
菊池さんもそうだけど、デザイナーにはそれぞれ個性があります。「こういう靴がつくりたい。」というイメージを持っていますから、そこを出発点に木型づくりをしていきます。その人の個性やイメージをどうやったら実現できるのかなと試行錯誤しながら、いい木型を作ることが私の仕事です。
これまでChochotteのために作った木型は、どれも「これ、本当に履けるの?」って思うくらいの細さです。靴売り場にある靴は、ワイズEとか3Eサイズが普通。ワイズが1つ違うと靴幅の寸法は約6mm変化するので、E→D→C→B→Aまでワイズを下げたChochotteのAや2A、3Aサイズの靴は、本当に細いですね。
親指が伸びやかに踏める靴を作るために
細いといっても、標準的な木型の幅をただ削るだけではダメです。普通のワイズEの木型の設計図を縮小しても、ワイズAの木型にはならないのです。足に合う木型をつくるには、足幅を狭くすると同時に、縦横や前と後ろのバランスも微妙に変化させる必要があります。
細幅靴を求めている人の足はかかとも小さく、かかとの形状もいろいろあります。そうした足の個性や骨格を考えながら『足なり』の木型を作っています。
私が理想的だと思うのは、足にぴったりで無理なく履けて、しっかり地面を踏みしめられる靴です。歩くときに一番体重がかかる親指が、伸びやかに踏めることが大事。親指が伸ばせない靴は外反母趾の原因にもなってしまいますからね。
1日1足は木型を試作してアイデアストック
ただ、仕事相手は個性的なデザイナーばかりです。靴の機能面はもちろんのこと、ファッションや流行もふまえた木型を提案しないと、信頼される関係は築けません。
私もその辺にある木型をハイって渡すだけの仕事はつまらないので、今でも1日1足は木型を試作して、どうすれば人の個性を活かす木型が作れるかなと考えています。それが面倒だとか嫌だとか思ったことは一度もないのです。
修正を重ねるほどいい木型になっていく
木型づくりは、靴作りの最初の工程ですから、靴の良し悪しを左右します。しかし、いい木型さえあれば自動的にいい靴ができるかというと、そうではありません。むしろ木型を設計し終えてからが本番です。
木型からサンプル靴をつくり、実際に人が足入れしてみてはじめて、ここをもう少し削ろうとか、肉付けしようとか、どんな修正が必要なのかがわかってきます。木型に修正や調整を加えることで、より『足なり』の木型に仕上げていくことができるのです。
ときどき、木型を一度も修正しないでそのまま生産に入る人がいるのですが、すごく恐ろしいことだなと内心思いながら見ています(笑)。
木型づくりのおもな工程
- デザイナーのイメージをもとに木製の木型を試作
- 木型をもとに紙型をおこし、サンプル靴を作成
- サンプル靴に人が足入れをして、見た目・履き心地などをふまえて木型を修正
- 2と3を数回繰り返す
- 木型の修正が完了したら計測してデータ化し、生産用の樹脂製木型を作成
木型職人がオススメする靴選びのポイント
靴を選ぶときはまずどこを見ますか? おそらく靴の前方に注目する人がほとんどでしょう。でも靴職人は後ろを見て、かかとを基準に靴作りをしています。
だから靴を選ぶときは、まず自分の足と靴のかかとをきちっと合わせて、それで親指がちゃんと伸びる靴を選んでください。
かかとが合っていないと足が前に滑ってしまい、親指でしっかりと地面を踏みしめることができません。
一番よくないのは、スリッパのような左右対称の靴。ゆるくてパカパカした靴を履くと、ペタペタとすり足で歩くことになり、地面を踏みしめる力が弱って足の筋肉がどんどん衰えてしまいます。
それに対し、足の骨格を考えて『足なり』に作った木型はおのずと丸みをおびて、左右の形が非対称になります。そういう木型からは足にフィットしやすい靴が作れるのです。
簡単に安く作るだけの靴はつまらない
しかし最近、街でスリッパのような靴をよく見かけますね。そのほうが作るのが簡単で、安い価格で売れるからでしょう。
確かに、木型づくりにこだわると「靴が作りにくいよ」と言われることがあります。木型は『足なり』に作るほど立体的になって、そこに紙を沿わせて革を裁断するための紙型を作ったり、木型の意図通りに製靴したりするのが大変になるのです。
その手間を省こうと、売れている靴の片足を持って来て木型を作ってくれとか、製靴が簡単な木型を作って海外で生産したいという人もいますよ。そうなると、デザイナーの個性とかイメージとか、そういう世界ではなくなります。
いかに簡単に安く作るかが目的になると、きっと同じような靴ばかりが世の中に増えてしまいます。だから私はいつか、うんと靴が作りにくいタイプの木型で夢の靴をつくってみようと思っています。まぁそれは仕事というよりライフワークみたいなものですけどね。
実は今、菊池さんとChochotteの新しいデザインの木型について打ち合わせをしています。それは今までの木型よりも、製靴が難しいタイプになると思います。
どれだけデザイナーの想いや意図を木型にこめても、それが靴に反映されるかどうかは、製靴する職人次第というところがあります。靴はそれくらい、作り手で変わるものなのです。
その点、Chochotteの細幅靴を製靴している職人はなかなか上手いですよ。できあがった靴を見てそう思っています。
次回は、木型職人さんから製靴職人さんたちへタスキが渡ります。どうぞお楽しみに。